AIR / one

drkcs2003-12-02


アルバムレビューのトリは、待望してましたAIRです。発売日にゲットして以来聞き込んではいたんですが、いまだに、まさに「狐につままれたよう」な気分です。聞く度に混乱してきます。

て書くと、否定的なのかと思われてしまうかもしれませんが、全く逆ですよ。…もう何も言うことNothing。語るだけ野暮。レビューなんて文字ヅラでこの素晴らしさを伝えるなんて、もはやインパシボー。

なんですが、それじゃこの日記の存在意義を自分で見失ってしまいそうになるので、あえて表現することには挑んでみます。でもきっと明日聞いたら、また違う考えが浮かんでしまうと思います。

starletの紹介のときに書いたように、確かにこのアルバムはstarletの世界を広げたものでした。でも、僕の予想は見事に裏切られてしまいました。つまりはスパイラルライフへの単純な回帰なんてもんじゃ全くなかったわけですね。それどころかまたもやAIRは、新しい世界をいともたやすく完成させてしまいました。いや、たやすかったかどうかは本人じゃないんで分かりませんが、どうしてこうも毎回新世界を築けてしまうんでしょうか。

アーティストの個性とはなんなんでしょう。個性があればこそアーティストたる、てのは合ってると思うんですが、その個性ってのはアーティスト固有のものだとばかり思ってました。そして、こと音楽家にとって、その固有な個性ってのはあくまで「音楽上」の話に限定されるはずです。あのアーティストは歌詞がこうだから好きとか嫌いとか、メロディがどうとか、ロックだとか、パンクだとか、ポップだとか。

けれど、AIRの個性は固有じゃないんですよ。少なくとも音楽という数知れないプロパティをインクルードしたコレクションの中のどのプロパティが特にこれだってのがないんですよ。

あーまだ混乱してる。読んでても全然分かんないでしょ。僕もです。

例えるなら、万華鏡。どのビーズがどこに転がってもそれはいつも完全なる美しさを魅せてしまう。でも万華鏡には綺麗なビーズがあるからこそ、全体も美しいんです。では、AIRのビーズって何?

僕がその問いに対して、間違えを恐れずに答えてみるならば、それは「声」です。それは前回のレビューで書いたとおり。

でも、それではまだ100点満点中50点くらいなんですよ。だって、それで満点なら、声だけよけりゃ、どんな音楽作ってもよくなっちゃうんだから。

残りの50点へのヒントは、そこにあるのかもしれません。つまり「どんな音楽要素に対しても柔軟に自分のものにしてしまう」ってことです。常人を遙かに超えた音楽的センス。あまりに越えすぎてるので、ついて行く方も大変です(笑)。

今作は、今までのあまりに幅広い車谷浩二の活動の集大成であると同時に、starletで打ち出した「優しさ」というオブラートでそれらを一つずつ丁寧に包んで箱詰めしたボンタン飴みたいな作品だと思うんです(あーやっと少しだけ、本作をちゃんと表現できたかも(笑))。スパイラル的なノスタルジーにも、ギターパンクにも、ヒップホップにも、ネオアコにも、すべてに喧嘩をしないように天性の優しく甘い声でそっと魔法をかけてしまったようなアルバムです。

今はもうこれで充分。おなかいっぱい。ほんとはきっとこのアルバムの中にはもっと隠された秘密がたくさんあるんだと思います。でもそれを全て解き明かすのは、もっともっとこのアルバムが好きになってからでも遅くはないんじゃないかな。


てことで、次回からはまたいつものシングルレビューに戻ります。

ASIN:B0000D8RWG